虫歯や歯周病の治療と並んで歯科医療において極めて重要な土台となるのが、「噛み合わせ」です。
どれほど良い詰め物をしても、どれほど丁寧に歯磨きをしていても噛み合わせのバランスが崩れていれば特定の歯に過度な負担がかかり、歯は破壊されてしまいます。
また、顎の関節にトラブルを抱えていると食事や会話といった日常の基本的な動作に支障をきたし、生活の質を大きく下げてしまいます。
当院ではお口全体を一つの器官として捉え、長期的に安定する噛み合わせの確立を目指しています。
また、顎関節症などの専門的な判断が必要な症状については在籍する口腔外科専門医と連携し、的確な診断と治療を行います。
噛み合わせ治療
全身の健康を支えるバランスの調整
噛み合わせは変化するものです
「噛み合わせ」と聞くと生まれつきの骨格や歯並びだけで決まるものだと思われがちです。
しかし、実際には日々の生活習慣や加齢、歯科治療の履歴によって噛み合わせは常に変化し続けています。
歯は使っていれば少しずつすり減りますし、一本でも歯を失えば隣の歯が倒れ込んできたり、噛み合う相手の歯が伸びてきたりして全体のバランスが崩れていきます。
この変化を放置すると、一部の歯だけに強力な力が集中するようになります。
その結果、歯が割れる、詰め物が頻繁に取れる、歯周病が急激に進行するといったトラブルを引き起こします。
噛み合わせの不調和は、お口の中の「破壊的な力」となって歯を襲います。
当院では虫歯や歯周病の検査と同時に、噛み合わせのバランスに異常がないかを常にチェックしています。
不正な噛み合わせが引き起こす症状
噛み合わせが悪いことで起こるトラブルは、歯の問題だけにとどまりません。
顎の位置がズレることで首や肩の筋肉が常に緊張状態となり、慢性的な肩こりや頭痛、めまいなどの不定愁訴(原因のはっきりしない体の不調)を引き起こすことがあります。
・「マッサージに行っても肩こりが治らない」
・「原因不明の頭痛に悩まされている」
そのような症状が実は噛み合わせの調整によって改善するケースも珍しくありません。
お口は体のバランスを司る重心のような役割を果たしています。
正しい位置で噛めるようにすることは、全身の健康を守ることにつながります。
治療のアプローチ
噛み合わせ治療にはいくつかの段階と方法があります。
患者様の状態に合わせて、適切な方法を選択します。
咬合調整(こうごうちょうせい)
歯の接触状態を検査し、強く当たりすぎている部分や顎の動きを妨げている部分(干渉)をわずかに削って調整します。
ミクロン単位の微調整を行うことで全体のバランスを均一にし、スムーズな顎の動きを取り戻します。
削るといっても、エナメル質の範囲内での微量な調整ですので痛みを感じることはありません。
被せ物や詰め物による再構築
すり減って低くなってしまった歯や適合の悪い古い被せ物が原因である場合は、適切な高さと形を持った修復物に作り変えることで噛み合わせを回復させます。
お口全体のバランスを見ながら、理想的な噛み合わせの位置(咬合高径など)を決定し再構築していきます。
スプリント療法(マウスピース)
夜間の歯ぎしりや食いしばりが強い場合、あるいは顎の位置が不安定な場合は就寝中に専用のマウスピース(スプリント)を装着していただきます。
これにより、顎の関節や筋肉をリラックスさせ正しい顎の位置へと誘導します。
また、強すぎる噛む力から歯を守る役割も果たします。
矯正治療
歯の位置そのものが原因で噛み合わせが悪い場合は、矯正治療によって歯を正しい位置に移動させます。
根本的な解決を図るために、有効な手段の一つです。
顎関節症治療
顎の痛みや違和感へのアプローチ
顎関節症(がくかんせつしょう)とは
- 「口を開けると顎が痛い」
- 「口を開閉するときにカクカク、ジャリジャリと音がする」
- 「口が大きく開かない(指が縦に3本入らない)」
これらは顎関節症の三大症状と呼ばれています。
顎の関節(耳の前あたり)や顎を動かす筋肉(咀嚼筋)に異常が起きている状態です。
若い女性に多いと言われてきましたが、近年ではストレス社会の影響もあり年齢性別を問わず増加傾向にあります。
放置すると痛みが強くなって食事が困難になったり、急に口が開かなくなったり(ロック)することもあるため、早めの対処が必要です。
原因は一つではありません
顎関節症は単一の原因で起こるものではなく、いくつかの要因が積み重なって発症する「多因子疾患」と考えられています。
主な要因としては、以下のものが挙げられます。
| 要因 | 説明 |
|---|---|
| ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり) | 無意識のうちに行う歯ぎしりや食いしばりは、顎関節に体重の数倍もの負荷をかけます。これが原因となることが多いです。 |
| 噛み合わせの悪さ | 不安定な噛み合わせは、顎の運動軌道を歪め関節に負担をかけます。 |
| ストレス | 精神的なストレスは筋肉の緊張を高め、食いしばりを誘発します。 |
| 生活習慣(癖) | 頬杖をつく、片側の歯ばかりで噛む(偏咀嚼)、うつ伏せ寝、猫背などの姿勢の悪さが顎のズレを引き起こします。 |
当院では問診や検査を通じて患者様ごとの原因(寄与因子)を探り出し、それを取り除くためのアドバイスと治療を行います。
専門医との連携による診断
顎の不調は、顎関節症だけが原因とは限りません。
稀に顎の骨の腫瘍や関節リウマチなどの全身疾患、あるいは親知らずの炎症が原因で顎が痛むこともあります。
これらを見極める(鑑別診断する)ためには、専門的な知識と経験が必要です。
当院には口腔外科を専門とする歯科医師が在籍しています。
レントゲン検査やCT検査、触診などを行い痛みの原因が筋肉にあるのか、関節円板(クッション)
にあるのか、それとも骨の変形によるものなのかを的確に診断します。
一般的な歯科医院では対応が難しい難症例や外科的な処置が必要と判断される場合でも、専門医の視点から適切な治療方針をご提案します。
必要に応じて、高次医療機関(大学病院など)への紹介もスムーズに行います。
顎関節症の治療方法
基本的には体に負担の少ない保存療法(手術をしない治療)を中心に行います。
- スプリント療法(マウスピース)
- 患者様の歯型に合わせたプラスチック製のマウスピースを作製し、主に就寝中に装着していただきます。
これにより、顎関節にかかる負担を軽減し関節内部の圧力を下げます。 また、噛み合わせを均等にすることで筋肉の緊張を和らげ、症状を改善します。
健康保険が適用される一般的な治療法です。
- 薬物療法
- 痛みが強く日常生活に支障が出ている場合は、消炎鎮痛剤(痛み止め)や筋弛緩薬(筋肉をほぐす薬)を処方します。
炎症を抑え、痛みの悪循環を断ち切ることで開口訓練などのリハビリを行いやすくします。
- 理学療法・運動療法
- 硬くなった筋肉をほぐすマッサージや関節の動く範囲を広げるためのストレッチ(開口訓練)を指導します。
ご自宅で行っていただくセルフケアが、症状の改善と再発防止に大きな効果を発揮します。
正しい顎の動かし方を習得していただきます。
- 生活習慣の改善指導
- 顎関節症の治療において、大切なのは顎に負担をかける生活習慣を見直すことです。
・「硬い食品を避ける」
・「大きなあくびをしない」
・「頬杖をやめる」
といった日常の注意点をお伝えします。
特に重要なのが、次項で説明する「TCH」の是正です。
TCH(歯列接触癖)について
無意識の癖が歯と顎を壊す
- 歯は離れているのが正常です
- 皆様はリラックスしている時、上下の歯はどうなっていますか。
もし、上下の歯が触れ合っているとしたらそれは「TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)」という癖です。 本来、人間の上下の歯が接触するのは食事をして飲み込む瞬間や会話の特定の発音の時だけです。
その時間を合計しても、1日にわずか20分程度と言われています。 それ以外の時間は上下の歯は数ミリ離れており、顎の筋肉はリラックスしているのが正常な状態です。
しかし、パソコン作業やスマホ操作、家事、運転などに集中している時無意識に上下の歯を接触させ続けている方が非常に多くいらっしゃいます。 強い力で噛み締めていなくても軽く触れているだけで、顎の筋肉はずっと緊張し続け疲労が蓄積します。
これが、顎関節症や歯の痛み、知覚過敏、詰め物の脱離などを引き起こす大きな原因となります。
- 意識を変える認知行動療法
- TCHは無意識の癖であるため、治すにはご自身の意識を変える必要があります。
当院では「唇を閉じて、歯を離す」という感覚を覚えていただくための指導を行っています。 「歯を離す」と書いたメモを目につく場所に貼る(リマインダー)
など、行動療法的なアプローチを取り入れ顎に負担をかけない習慣作りをサポートします。
この癖が治るだけで、長年の顎の痛みや肩こりが嘘のように解消されることもあります。
歯ぎしり・食いしばり対策
ナイトガード
- 眠っている間の破壊的な力
- 睡眠中の歯ぎしり(グラインディング)や食いしばり(クレンチング)は、体重の数倍〜10倍もの力が歯にかかると言われています。
これは食事の時の力とは比較にならないほど強大なエネルギーです。 この力によって歯がすり減るだけでなく、歯の根元が欠けたり(くさび状欠損)、セラミックが割れたり、歯周病が悪化したりします。
しかし、睡眠中の行動をご自身の意思で止めることは不可能です。
- 歯を守るためのヘルメット
-
そこで当院では歯ぎしりがある方やインプラント・セラミック治療を受けられた方に対して、「ナイトガード」の使用を強く推奨しています。
これは就寝中に装着するマウスピースで、歯と歯が直接擦れ合うのを防ぎ破壊的な力を分散させるクッションの役割を果たします。 工事現場でヘルメットを被るように、大切な歯を物理的に守るための必須アイテムです。
保険診療で作製することができますので、朝起きた時に顎が疲れている方や歯のすり減りが気になる方はお早めにご相談ください。
健やかな毎日は、正しい噛み合わせから
噛み合わせのズレや顎の不調は虫歯のように穴が開いたり、黒くなったりするわけではないため目で見て分かりにくい問題です。
そのため、「なんとなく違和感があるけれど、こんなことで歯医者に行ってもいいのかな」と遠慮される患者様がいらっしゃいます。
しかし、噛み合わせは放置すればするほどお口全体の崩壊を招くリスク因子となります。
私たちは患者様の言葉にならない違和感に耳を傾け、その原因を専門的な視点で解明します。
美味しく食事をし、大きく口を開けて笑い、ぐっすりと眠る。
そんな当たり前の生活を取り戻すために、早乙女歯科医院の噛み合わせ治療をご活用ください。
口腔外科専門医を含むチーム体制で、皆様の顎と歯の健康をお守りします。

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