皆様は家を建てる時に、最も重要な部分は何だとお考えになるでしょうか。
美しい外壁や最新の設備を備えたキッチンも魅力的ですが、それらを支える「基礎」が脆ければ、どんなに立派な家も長くは持ちません。
歯科治療において、被せ物(クラウン)や詰め物が「家」だとすれば、根管治療はまさに「基礎工事」にあたります。
どんなに高価で美しいセラミックの歯を入れても、その土台となる歯の根(根管)の中に細菌が残っていれば、やがて炎症を起こし、痛みや腫れが再発してしまいます。
最悪の場合、せっかく入れた被せ物を壊してやり直すか、抜歯を余儀なくされることもあります。
当院ではこの「見えない基礎」の治療にこそ、歯科医療の真価が問われると考えています。
再発を防ぎ、ご自身の歯を長く使い続けていただくために、私たちは妥協のない精密な根管治療を行っています。
根管治療のメカニズム
歯の中心部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管が通っている管があります。
深い虫歯によって、この歯髄まで細菌が達してしまうと、激しい痛みや炎症を引き起こします。
また、過去に神経を取った歯であっても、何らかの原因で再び細菌が侵入し、根の先で膿の袋(根尖病巣)を作ることがあります。
根管治療とは、この汚染された神経や細菌、古くなった薬などをきれいに取り除き、管の中を洗浄・消毒した上で、再び細菌が入らないように薬を隙間なく詰めて密閉する治療です。
一般的には「神経の治療」「根の治療」と呼ばれています。
この治療が成功するかどうかが、その歯の寿命を決定づけます。
抜歯を回避し、ご自身の歯を使い続けるための「最後の砦」とも言える非常に重要な処置です。
根管治療は難しい
お口の中は暗く、根管の入り口は針の穴ほどしかありません。
さらに、根管の中は真っ直ぐな管ではなく、曲がっていたり、枝分かれしていたり、網目状になっていたりと、非常に複雑な形態をしています。
この複雑な迷路のような空間から、ミクロ単位の細菌を完全に除去することは、極めて難易度の高い作業です。
肉眼と手探りだけの治療では、どうしても細菌の取り残しや薬の充填不足が生じやすく、それが日本における根管治療の再発率の高さにつながっているという現実があります。
当院では、この難題に対して、先進的な機器と徹底した無菌管理体制で挑んでいます。
当院の根管治療における4つのこだわり
1. ラバーダム防湿の徹底
根管治療の成否を分ける最大の要因は「細菌の管理」です。
治療中に、唾液に含まれる細菌が根管内に入り込んでしまっては、消毒しているそばから汚染させているようなもので、治療の意味がありません。
そこで必須となるのが「ラバーダム防湿」です。
これは、治療する歯以外の部分を薄いゴムのシートで覆い、隔離する方法です。
手術室で患部以外を布で覆うのと同じように、お口の中で清潔な手術野を作り出します。
ラバーダムを使用することで得られる効果は計り知れません。
まず、唾液による細菌汚染を100%遮断できます。
また、治療に使用する強力な消毒薬がお口の中に漏れたり、細かな器具を誤って飲み込んだりする事故を確実に防ぐことができます。
日本の歯科医院でのラバーダム使用率は依然として低いのが現状ですが、世界的な基準(グローバルスタンダード)では、ラバーダムなしの根管治療は推奨されていません。
当院では、自費診療はもちろんのこと、保険診療の根管治療においても、ラバーダム防湿を必須としています。
コストや手間よりも、患者様の歯を守るための安全性を最優先するという、私たちの強い意志の表れです。
2. マイクロスコープ
前述の通り、根管内は非常に微細で複雑です。
肉眼で見える範囲には限界があり、手探りの治療では汚染物質を取り残してしまうリスクがあります。
当院では、必要に応じて歯科用顕微鏡「マイクロスコープ」を使用します。
患部を最大で約20倍まで拡大し、強力なライトで根管の奥深くまで照らすことができます。
これにより、肉眼では発見できなかった微細な亀裂(破折線)、隠れた根管の入り口、取り残された汚れなどを鮮明に確認しながら処置を行うことが可能になります。
「見えないから勘でやる」治療から、「見て確実に取る」治療へ。
保険診療であっても、症例の難易度に応じてマイクロスコープを積極的に活用し、精度の高い治療を追求しています。
3. 歯科用CTによる三次元診断
従来の二次元のレントゲン写真では、根の数や形、病巣の大きさを平面でしか捉えることができませんでした。
特に、根が重なり合っている場合や骨の裏側に病巣がある場合などは、正確な診断が困難でした。
当院では、歯科用CTを導入しており、患部を三次元(立体)画像として確認することができます。
「根がどの方向に曲がっているのか」
「病巣がどの位置に、どのくらいの大きさで広がっているのか」
「見つかりにくい第4の根管(MB2など)があるのではないか」
これらを治療前に正確に把握することで、治療の戦略を立て、無駄な切削を避け、効率的かつ安全に治療を進めることができます。
診断の精度は、治療結果に直結します。
4. ニッケルチタンファイルと専用モーター
根管内の汚染物質を掻き出すためには、「ファイル」と呼ばれる細い器具を使用します。
従来の手用ステンレスファイルは硬く、曲がった根管に対して無理に進めようとすると、本来の根管の形を変えてしまったり、器具が折れ込んでしまったりするリスクがありました。
当院では、柔軟性に優れた「ニッケルチタンファイル」を使用しています。
このファイルは非常にしなやかで、湾曲した根管にも追従して汚れを除去することができます。
さらに、これを専用の電気モーターに装着して使用することで、一定の速度と力で効率的に清掃を行うことが可能です。
治療時間の短縮にもつながり、患者様のお口を開ける負担を軽減します。
専門医との連携体制
歯内療法専門医
歯科医療の世界には、それぞれの分野に特化したスペシャリストが存在します。
根管治療を専門とする歯科医師を「歯内療法専門医」と呼びます。
彼らは、根管治療に関する深い知識と高度な技術を持ち、一般の歯科医師では保存が困難とされるような難症例に対しても、高い成功率で歯を残すことができます。
当院には、歯内療法専門医である野田哲朗医師が在籍(非常勤)しています。
地域の歯科医院としては非常に恵まれた環境です。
餅は餅屋【専門医をご紹介します】
私たちは、すべての治療を院長一人で抱え込むことはしません。
患者様の利益を第一に考えた時、最も確実な結果を出せるドクターが担当すべきだと考えるからです。
初診時の診断で、根の形が極端に複雑な場合や、過去の治療で器具が折れ込んでいる場合、あるいは再治療を繰り返しても治らない場合などは、無理に一般医が手を出さず、第一優先で専門医による治療をご提案します。
専門医による治療は、マイクロスコープを駆使し、より専門的な薬剤や器具を用いて行われます(多くの場合、自費診療となります)。
「どうしてもこの歯を残したい」という患者様の想いに応えるため、最高レベルの技術を提供できる体制を整えています。
もちろん、専門医に依頼するかどうかは、費用や期間を含めて患者様と相談の上で決定します。
根管治療の流れ
地道な作業の積み重ねが未来を作る
根管治療は、1回で終わることは稀です。
根の中が無菌状態になるまで、数回の通院が必要となります。
途中で中断してしまうと、細菌が爆発的に増殖し、抜歯せざるを得なくなることもありますので、根気よく通っていただくことが大切です。
Step 1:診査・診断
レントゲン撮影、CT撮影(必要に応じて)、打診(叩いた時の反応)、触診などを行い、病状を正確に診断します。 痛みの原因が本当に歯の神経にあるのか、それとも噛み合わせや歯周病にあるのかを見極めます。
Step 2:隔壁の作製とラバーダム防湿
虫歯で歯が大きく欠けている場合は、ラバーダムを掛けるための壁(隔壁)を樹脂で作ります。
その後、ラバーダム防湿を行い、患部を唾液から隔離します。
治療する歯の周りを消毒し、無菌的な環境を整えます。
Step 3:根管口の汚染除去
歯の上部を削り、根管の入り口を見つけます。
マイクロスコープやルーペを使用し、ニッケルチタンファイル等を用いて、根管内の感染した神経や細菌、古くなった詰め物を徹底的に除去します。
同時に、根管内を洗浄液(次亜塩素酸ナトリウムなど)で何度も洗い流し、化学的にも消毒します。
Step 4:貼薬(ちょうやく)
きれいになった根管内に、殺菌作用のある薬を入れ、仮の蓋をして経過を見ます。
この工程を、根管内がきれいになり、症状が治まるまで数回繰り返します。
※再治療の場合や病巣が大きい場合は、回数が増えることがあります。
Step 5:根管充填(こんかんじゅうてん)
痛みや膿がなくなり、根管内が無菌状態になったと判断されたら、最終的な薬(ガッタパーチャというゴムのような素材)を詰めます。
隙間なく緊密に充填することで、再び細菌が入り込むスペースをなくします。
治療後はレントゲン撮影を行い、薬が根の先までしっかり入っているかを確認します。
Step 6:土台構築と被せ物の装着
根管治療が終わった歯は、中が空洞になっているため、補強するための土台(コア)を立てます。
当院では、歯にかかる負担を減らすために、しなやかなファイバーコア(グラスファイバー)を使用することもあります。
その後、精密な型取りを行い、被せ物(クラウン)を装着して、噛む機能を回復させます。
被せ物の適合精度も、再感染を防ぐために非常に重要です。
外科的歯内療法
- 歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)
- 通常の根管治療(歯の頭側からのアプローチ)では治癒しない場合や、被せ物を外すことができない(太い金属の土台が入っている等)場合があります。
そのようなケースでは、外科的な処置を行うことがあります。
「歯根端切除術」とは、歯茎を切開して骨に小さな穴を開け、感染している根の先(根尖)の一部と膿の袋を直接切り取る手術です。 切り取った根の断面には、後ろから薬を詰めて封鎖します(逆根管充填)。
マイクロスコープを用いて精密に行うことで、これまで抜歯するしかなかった歯を救える可能性が広がりました。
- 意図的再植術
- 一度歯を抜き、お口の外で根の治療や病巣の除去を行った後、再び元の場所に戻す(再植する)方法です。 お口の中では器具が届かない場所や複雑な形状の場合に、有効な手段です。
治療後の痛みについて
治癒過程で起こる反応
根管治療中や治療後に、一時的に痛みや腫れが出ることがあります。
これは、治療の刺激によって炎症が活性化したり、免疫反応が起きたりするためです。
「治療したのに痛くなった」と不安に思われるかもしれませんが、多くの場合、治癒に向かう過程で起こる一時的な反応(フレアアップ)です。
痛み止めを服用していただくことで、数日から1週間程度で治まります。
ただし、痛みが激しい場合や腫れがひどい場合は、すぐにご連絡ください。
患者様へのお願い
中断せずに最後まで
根管治療は、患者様にとっても負担の大きい治療です。
口を長く開けていなければなりませんし、通院回数もかかります。
痛みが取れると「もう治った」と勘違いして、通院を中断してしまう方がいらっしゃいますが、これは非常に危険です。
仮の蓋はあくまで一時的なものであり、時間が経てば隙間から細菌が入り込みます。
中断している間に内部で虫歯が進行し、次に痛みが出た時には、もう抜歯しか方法がないというケースが後を絶ちません。
根管治療は、マラソンのようなものです。
ゴール(被せ物が入る)まで、私たちと一緒に走り切ってください。
大切な歯を守るために
私たち早乙女歯科医院は、安易に歯を抜くことを良しとしません。
一本の歯を救うために、持てる技術と設備を総動員して治療にあたります。
他院で「抜歯が必要です」と言われた歯でも、専門的な根管治療によって残せる可能性があります。
諦める前に、一度当院にご相談ください。
そして、治療が無事に終わった後は、二度と再発させないために、定期的なメインテナンス(予防歯科)に通っていただくことを強くお勧めします。
「治療の終わり」は「予防の始まり」です。
苦労して残した歯を、今度は予防の力で守り抜きましょう。

0282-27-3737